古時計
JUGEMテーマ:日記・一般
もう、20年ちょっとは経つだろう。
浜の近くの2階建ての古いアパートで一人暮らしを続けるおばーちゃんがいた。
部屋の中を移動する事さえ頼りないのに、
ごみ収集の日には2階の自室からごみ袋持って階段を降りて来るのだった。
その頃、僕はおばあちゃんのお宅に週に一度訪問させていただいていた。
てんぷらが好きで事故にならなければいいがと心配していた。
随分と長い間、周囲の声を聞き入れることもなくそのアパートに一人で暮らし続けた。
100歳になる頃、一人での生活ができなくなり、施設にようやく入りホッとしたのを覚えている。
何年かの間お伺いさせていただいたが、おばあちゃんの部屋の時計は同じ時間で止まったままになっていた。
気になっていた僕は、いつの日だったか、どうしてなのかをおばあちゃんに聞いてみた。
するとおばあちゃんは「主人が亡くなった時間で止めてあるんです」と語ってくれた。
その時のおばあちゃんのしばらくの間の時の止まったような顔を、そして次の瞬間に時がほどけて優しい表情
になって戻って来た時の顔を忘れない。
その時、ご主人と長い時を共にしたその部屋で、ひと時の時間旅行をしてきたのだろうって僕は思ったのだった。
そんなおばあちゃんとは去年にまた出逢いがあって、それから一か月に一度お会いできるようになった。
歌が好きだった僕にプレゼントしてくれた小学校唱歌の本。
おばあちゃんは忘れてしまったけれども、僕は忘れないよ。
だから、おばあちゃんに会うたびに、その本を見せて「ありがとう」って僕は言い続けるよ。
僕は覚えているよ、ずっと忘れないよ、20年ちょっと前のおばあちゃんとの会話を。
「ユキエさんは食べ物は何が好き?」
「ブドウだね」
11月にはなんと106歳になられる。
11月になっても何とかおいしブドウを用意出来たらいいのだけれども。
なんとしても届けたいよ。
なんとしても・・・
(訂正 、10/11にお会いして確認したところ、
今度の11/1で、108歳になられるとのことでした)